はじめにこんにちは、コラボナレッジの永富です。私は、専門学校で食品業界研究に関する授業を担当したり、飲料メーカーで商品開発や品質管理にかかわる仕事をしていました。今回、食品業界に興味を持つ就活生の皆さんに向けて、食品業界の基本構造各職種の役割業界の最新トレンドと課題を、分かりやすくまとめました。特に、食品業界では今、「高齢化」「健康志向」「HACCP義務化」「食品ロス問題」の課題があります。このような背景から、これからの食品開発は大きく変わろうとしています。この記事では、そうした最新情報も盛り込みました。食品業界に興味がある方にとって、少しでもヒントになる記事になれば幸いです。目次1.食品業界の全体像食品業界の役割と規模食品業界とは、私たちの生活に欠かせない「食」を支える産業群です。農業、漁業、食品製造、流通、小売、外食産業など、幅広い分野が密接に連携しながら、日々私たちの食卓に安全で美味しい食品を届けています。食品業界が担う4つの大きな役割① 生活基盤を支える役割食品業界は、単なるモノの供給者ではなく、人々の健康、幸福、社会の安定を支える、生活基盤そのものです。特に近年は、健康志向が高まる中で、機能性食品や栄養補助食品の開発・提供も重要な役割になっています。② 経済への大きな貢献日本国内における食品製造業の生産額は、約36.5兆円(令和3年度、農林水産省統計)に達しています。これは、全経済活動の1割以上を占める規模であり、他産業と比較しても非常に大きな存在です。また、世界市場では、ネスレやペプシコといった、売上10兆円超の巨大企業も存在し、グローバル競争も激化しています。③ 雇用の創出食品業界は、農業、製造、流通、小売など多様な分野で雇用を生み出しています。日本国内では、食品製造業だけで約121万人(2022年度、経済産業省統計)が働いており、地域経済にも大きく貢献しています。④ 食文化を継承し、革新する役割日本の食文化は「和食」としてユネスコ無形文化遺産にも登録されています。食品業界は、こうした伝統文化を守りながら、消費者のニーズに応じた新たな食のトレンドも創出し続けています。2.食品業界の市場規模食品業界全体の国内市場規模は、約108.5兆円(推定)とされており、その中でも食品製造業が約36.5兆円を占めます。この数字は、自動車産業など他の主要産業と比べても非常に大きく、日本経済の中核を担う存在です。また、食品業界は規模の大きさに加え、多様性も特徴です。グローバル展開する大企業から、地域に根差した中小企業・零細企業まで幅広く存在し、それぞれが特色ある商品やサービスを提供しています。消費者は、こうした多様な選択肢から、自分のニーズに合った食品を自由に選ぶことができるのです。 食品業界の全体像食品業界における主要な職種とその役割食品業界には、多様な職種が存在し、それぞれが食品の生産から消費者の手に届くまでを支えています。食品業界を志望するなら、どのような仕事があるのかを理解することがとても重要です。ここでは、代表的な職種と具体的な業務内容について紹介します。1. 研究開発(R&D)役割食品業界における革新的な製品や技術を生み出す部署です。新たな機能性食品や保存技術、調味料・添加物などを開発し、企業の競争力を高める重要な役割を担っています。特に最近では、健康志向製品や環境配慮型製品の開発が注目されています。具体的業務新商品の開発(試作品の作成、成分・風味の調整)機能性成分の研究と評価保存期間延長や調理技術の向上科学的データに基づく商品改良と提案2. 商品開発役割市場ニーズを捉え、実際に売れる商品を形にする役割です。研究開発の成果をもとに、コンセプト設計から商品化、パッケージデザイン、ブランドづくりまでを担当します。具体的業務市場調査と消費者インサイトの分析商品コンセプト設計とターゲット設定パッケージデザインやブランディング試作品開発と官能評価の実施3. 品質管理役割製品が安全で安定した品質を持つことを保証する部署です。食品の安全基準(HACCP、ISO22000、JFSなど)に沿った管理・検査を行い、消費者の信頼を守ります。具体的業務食品安全基準(HACCP、ISO等)の維持管理工場の衛生管理と製造工程の監視微生物検査・理化学検査の実施クレーム対応と製品改善提案4. 製造管理役割効率的かつ安定した製造を実現する役割です。製造ラインの工程管理、生産スケジュール立案、設備保守まで幅広く担当します。具体的業務生産スケジュール作成と工程管理製造ラインの監視とトラブル対応機械メンテナンスと設備改善原材料・製品在庫の管理5. 営業役割食品メーカーの商品を市場に広める最前線の仕事です。取引先への提案営業や、消費者ニーズを開発部門へフィードバックする役割も担います。具体的業務小売店・外食産業への提案営業取引先との関係構築・契約交渉マーケティング情報の収集と共有販売戦略の立案・実行6. マーケティング役割市場分析から広告キャンペーンまで、商品の売れる仕組みを作る仕事です。消費者のニーズを的確に捉え、商品開発やブランディングに直結する施策を展開します。具体的業務消費者調査・市場分析広告キャンペーンの企画・実施プロモーション戦略の立案ブランドイメージ管理7. コーポレート部門(経理・人事・総務)役割企業全体を支える「縁の下の力持ち」です。財務管理、人材採用、社内業務の効率化など、経営基盤の安定と成長を支えます。具体的業務経理:財務管理・決算報告の作成人事:採用活動、教育・評価制度の運営総務:社内設備管理、業務効率化支援3. 食品業界の現在のトレンドと課題食品業界は、時代の変化や消費者ニーズに応じて常に進化を続けています。特に近年は、健康志向や環境問題への関心が高まる中で、食品メーカーにも新たな対応力が求められるようになりました。ここでは、現在の食品業界を理解するうえで重要な「3つのトレンドと課題」について解説します。健康志向の高まり現代社会では、高齢化の進行や生活習慣病の増加に伴い、消費者の健康への意識が一層高まっています。これに応じて食品メーカー各社は、低カロリー、低脂肪、無添加、機能性表示食品といった健康志向製品の開発を強化しています。トレンドの背景高齢化社会日本では高齢化が進み、健康寿命を延ばす取り組みが重要な社会課題となっています。介護食やシニア向けの機能性食品も注目されています。生活習慣病の予防ニーズ糖尿病、高血圧など生活習慣病の予防を意識した食品が求められています。機能性食品市場の拡大機能性表示食品やトクホ(特定保健用食品)など、科学的根拠に基づく健康訴求型製品の市場が拡大しています。食品業界の対応食品メーカーは、消費者のニーズに応じた新製品を次々と開発しています。食物繊維やプロバイオティクス、オメガ3脂肪酸を含む健康食品血糖値上昇を抑えるとされる機能成分を配合した商品成分表示をわかりやすくし、消費者が自分に合った商品を選びやすくする工夫こうした取り組みは、健康寿命の延伸だけでなく、企業のブランド価値向上にもつながっています。食品ロス問題への取り組み食品ロスとは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。日本では、年間約523万トンもの食品ロスが発生しており、事業系・家庭系の双方から多くの廃棄が出ています。トレンドの背景環境負荷の増加食品ロスにより、廃棄処理時のCO₂排出や資源の浪費が問題視されています。社会的要請の高まりSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けて、食品ロス削減が国際的な目標となっています。日本でも「食品ロス削減推進法」が施行されています。食品業界の対応在庫管理・供給チェーンの最適化製造・流通の各段階で、廃棄を減らすために在庫管理を徹底しています。賞味期限延長技術・パッケージ改良食品の保存性を高める技術革新が進められています。消費者への啓発活動「てまえどり」運動(陳列棚の手前から商品を取る)などを通じ、消費者側の意識向上にも取り組んでいます。HACCP(ハサップ)義務化による安全性強化HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食品の製造工程で発生する可能性のある危害要因を分析し、重要管理点をモニタリングする衛生管理手法です。令和3年6月から、食品製造事業者に対してHACCPの導入が義務付けられました。トレンドの背景食の安全確保の重要性食中毒や異物混入など、消費者の安全を守るため、食品製造現場の衛生管理が一層強化されています。グローバルスタンダード化HACCPは国際的に標準化されており、海外市場への輸出入においても必要不可欠な条件となっています。食品業界の対応HACCPシステムの導入徹底製造工程ごとに危険要因を分析し、重要管理点を設定して継続的に監視・記録する体制を整えています。従業員教育とシステム改善HACCPの考え方を従業員一人ひとりが理解し、実践できるよう、教育・訓練を徹底しています。また、記録システムのデジタル化など、効率化も進められています。まとめここまで、食品業界における最新トレンドと課題を紹介しました。食品業界は、単に「食べ物を作る」産業ではありません。人々の健康、社会の持続可能性、食文化の未来を支える、とても大切な産業です。これから食品メーカーへの就職を目指す皆さんには、業界の現在地と未来への取り組みを正しく理解したうえで、自分の目指すキャリアを描いてほしいと思います。次回はさらに、商品開発の基礎知識について、より深く掘り下げていきます!次回予告商品開発とは何か?商品が生まれるまでの流れアイデアをどう形にするか食品業界を志すなら必ず押さえておきたい「商品開発のリアル」について解説していく予定です。本コラムの食品業界研究についての講義(90分)や、食品の新商品開発のアイデア出しに関するワークショップの実施をご検討中の方は、教育機関・企業・団体を問わず、お気軽にお問い合わせフォームよりご連絡ください。内容や日程は、ご希望に合わせて柔軟に対応いたします。◆ PR記事執筆・講習会・販売支援のご依頼はこちらから ◆「こんなテーマで記事を読んでみたい」「1時間程度の社内・社外向け講習会を開催してほしい」「製品やサービスのPR記事を執筆してほしい」「製品のリンクを掲載してほしい」「自社製品・サービスの販売を取り扱ってほしい」などのご要望・ご相談がございましたら、お気軽に質問フォームよりご連絡ください。皆さまの声をもとに、より実用的な情報発信を目指してまいります。