食品企業にとって、「製品の安全性の確保」と「消費者からの信頼獲得」は重要な責務です。近年では、食物アレルギーを持つ消費者が増加しており、安全に食品を選ぶためには「正確で分かりやすい情報提供」が欠かせません。本記事では、食品関連企業に入社したばかりの新入社員の皆さんを対象に、次の内容を分かりやすく解説します。食物アレルギー表示制度の目的制度の変遷と背景表示ルールの基本企業が現場で気をつけるべきポイント業務の中でこの制度をしっかり理解し、正しく対応することは、消費者の命と健康を守り、企業としての信頼を守る大きな一歩になります。ぜひ最後までご覧ください。目次1.食物アレルギー表示制度とは?― 制度の目的と基本的なしくみ ―日本の食物アレルギー表示制度は、「食品表示法(平成25年法律第70号)」に基づき、「食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)」で定められています。この制度の目的は、食物アレルギーを持つ消費者がアレルゲン(アレルギーの原因となる食品)を避け、安全な食生活を送れるようにすることです。重要なポイントは、この制度がすべての消費者向けの情報提供ではなく、アレルギーを持つ一部の人々の健康リスクを防ぐことに特化しているという点です。過去の健康被害の頻度や重篤さを踏まえて、表示が義務付けられる「特定原材料」が選定されています。また、食品表示基準は、消費者が食品の安全性を自分で判断して選択できるようにするために、内閣総理大臣によって定められています。食品関連事業者はこの基準に基づいて表示を行う義務があり、違反した場合は次のような対応を求められることもあります:表示内容の修正指示表示義務の遵守指導緊急時の食品回収や業務停止命令制度の正確な理解と運用が、企業としての信頼を保つカギとなります。2.食物アレルギー表示制度の変遷日本の食物アレルギー表示制度は、2001年(平成13年)4月に、食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づき創設されました。制度開始当初は、アレルギーを引き起こす可能性が高く、症例数や重篤度の高い5品目が「特定原材料(義務表示)」として定められました。乳卵小麦そば落花生また、症例数や重篤度は比較的少ないものの、一定の注意が必要な食品については、「特定原材料に準ずるもの(推奨表示)」として19品目が通知により定められました。制度改正と表示品目の追加・変更制度開始以降も、全国実態調査の結果や新たな科学的知見に基づいて、表示対象品目の見直しが継続的に行われています。2004年12月:「バナナ」が推奨表示に追加2008年6月:「えび」「かに」が義務表示に移行2013年9月:「カシューナッツ」「ごま」が推奨表示に追加2019年9月:「アーモンド」が推奨表示に追加2023年4月:「くるみ」が義務表示に移行2024年3月「マカダミアナッツ」が推奨表示に追加、「まつたけ」が推奨表示から削除くるみの義務表示化(2025年施行)近年、特に「くるみ」のアレルギー症例数の増加が顕著であることから、2023年3月9日に食品表示基準が改正され、「くるみ」が2025年4月1日から義務表示(特定原材料)に追加されることが決定しました。背景には以下のような調査結果があります。2018年度:くるみの症例数が、鶏卵、牛乳、小麦に次いで4番目に多かった2021年度:症例数の増加傾向が継続2025年4月1日以降に製造・加工・輸入・販売される加工食品には、「くるみ」の表示が義務付けられます。ただし、2025年3月31日までに製造・加工・輸入された製品(業務用加工食品を除く)や、同日までに販売される業務用加工食品については、改正前の規定に基づく表示が認められる経過措置期間が設けられています。推奨表示の最新変更(2024年)2024年3月には、消費者庁による食品表示基準の改正により、以下の変更が行われました。「マカダミアナッツ」が推奨表示に追加「まつたけ」が推奨表示から削除マカダミアナッツは、即時型アレルギー症例数が上位20品目に入り、輸入量や加工食品での使用も増加傾向にあることが理由です。一方、まつたけは、最近の実態調査で症例数が極めて少なかったため、対象から外れました。これらの変更により、推奨表示の品目数は引き続き20品目に維持されています。今後の見直し予定(2025年度)「カシューナッツ」は、直近の調査で症例数が7位、ショック症例数が5位と高く、2025年度中に義務表示へ移行する方針が示されています。「ピスタチオ」も症例数の増加が見られ、2025年度中に推奨表示に追加される予定です。このように、食物アレルギー表示制度は、科学的な根拠や社会情勢に応じて、今後も継続的に見直しが行われることが想定されています。3.食品表示基準|理解すべきポイント食品表示基準は、消費者の安全確保と自主的な食品選択を支援するために、非常に重要な役割を果たしています。ここでは、食品企業に入社した新入社員が特に理解しておくべき基本的なポイントを解説します。現在の義務表示対象(特定原材料)現在、表示が義務付けられている「特定原材料」は以下の8品目です。2025年4月1日以降も、この8品目が義務表示対象となります。品目2025年4月1日以降の注意点えびかにくるみ義務表示に追加小麦そば卵乳落花生(ピーナッツ)また、特定原材料については、以下のような代替表記も認められています:卵 → 玉子、たまご、エッグ、うずら卵小麦 → こむぎ、コムギえび → 海老、エビかに → 蟹、カニそば → ソバ落花生 → ピーナッツ乳 → ミルク、バター、チーズ、アイスクリームくるみ → クルミ推奨表示対象(特定原材料に準ずるもの)以下の20品目は、表示が推奨されている特定原材料に準ずるものです。可能な限り表示するよう努める必要があります。2024年には「マカダミアナッツ」が追加され、「まつたけ」が削除されました。品目2024年の変更点アーモンドあわびいかいくらオレンジカシューナッツキウイフルーツ牛肉ごまさけさば大豆鶏肉バナナ豚肉マカダミアナッツ追加ももやまいもりんごゼラチンまつたけ削除表示方法の種類アレルギー表示には、主に以下の2つの方法があります。個別表示 原材料名の直後に括弧書きでアレルゲンを表示する方法(例:卵(卵を含む))→ 原則として個別表示が推奨されています一括表示 個別表示が困難な場合、原材料欄の末尾に「(一部に○○・△△を含む)」とまとめて記載する方法原材料と添加物の表示欄が分かれている場合、それぞれの欄の最後にまとめて表示することになります。表記の補足:代替表記と拡大表記代替表記:特定原材料と同一であることが分かる言葉(例:卵 → 玉子)拡大表記:特定原材料名を含む名称(例:小麦 → 小麦粉、乳 → バター、えび → えび天ぷら)代替表記は通知によりリスト化されていますが、拡大表記はあくまで例示です。ただし「卵白」「卵黄」なども「(卵を含む)」と表示する必要があります。省略は認められていません。注意すべきコンタミネーション表示製造ラインや調理器具などを通じて、意図せず特定原材料等が混入する可能性(コンタミネーション)があります。この場合は、アレルギー表示とは別に、注意喚起表示を行うことが可能です。例)「本品製造工場では、落花生を含む製品も製造しています。」なお、「入っているかもしれない」「入っている場合があります」といった曖昧な可能性表示は認められていません。意図しない混入を防ぐためには、以下の管理が重要です:製造ラインの洗浄方法の徹底HACCPに基づく衛生管理原材料の受入確認、保管、製造工程の管理このように、アレルギー表示には制度上のルールだけでなく、実務上の注意点も多く存在します。新入社員の皆さんも、制度の基本と現場での対応方法をしっかり理解しておくことが大切です。【実習付きセミナー】「食物アレルゲン検知技術概論と簡易迅速検査法(イムノクロマト検査キット)の実習」受講者募集中!コラボナレッジでは、食品関連業務に従事されている方を対象とした研修プログラム「食物アレルゲン検知技術概論と簡易迅速検査法(イムノクロマト検査キット)の実習(基礎・半日)」を定期的に開催いたします。本研修は、食品アレルゲン検査が初めての方にも分かりやすく、現場での実践的な活用を想定した「講義+実習」形式で構成されています。検査の初心者から品質管理ご担当者まで、幅広い層の方にご参加いただける内容です。また、イムノクロマト法による簡易迅速検査キットを実際に用いた実習も行い、習得した知識を現場ですぐに活かせるよう、実践的なスキルの習得を目指します。📘【タイトル】 食物アレルゲン検知技術概論と簡易迅速検査法(イムノクロマト検査キット)の実習(基礎)🧪【内容】 講義 + ナノトラップProII・ナノトラップEasyを使用したイムノクロマト検査実習👥 少人数制のため、質問しやすく、じっくり学べる実践的な内容です。📅【開催日時】ご連絡下さい。🏢【会場】町田商工会議所 会議室(東京都町田市原町田3-3-22) ※ 小田急線 町田駅 徒歩9分/JR横浜線 町田駅 徒歩5分👥【定員】4名程度(先着順)🎯【対象者】食品企業の品質管理・検査担当者 自社内での食物アレルゲン検査体制の構築・運用を検討されている方 食物アレルゲン検査に関する基礎知識および実務スキルの習得を希望される方💰【受講料】通常48,000円 → 特別価格 33,600円(税抜)【30%OFF】※実習キット代込み※2025年6月16日開催の研修チラシとなります。ご参考までにご確認ください。▶ チラシ(PDF)のダウンロードはこちら ご不明点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。皆さまのご連絡をお待ちしております。📩お問い合わせ:ynagatomi@collaboknowledge.co.jp📞070-7648-7752(担当:永富)今後の開催予定や個別開催のご相談も承ります。お気軽にご連絡ください。◆ PR記事執筆・講習会・販売支援のご依頼はこちらから ◆「こんなテーマで記事を読んでみたい」「1時間程度の社内・社外向け講習会を開催してほしい」「製品やサービスのPR記事を執筆してほしい」「製品のリンクを掲載してほしい」「自社製品・サービスの販売を取り扱ってほしい」などのご要望・ご相談がございましたら、お気軽に質問フォームよりご連絡ください。皆さまの声をもとに、より実用的な情報発信を目指してまいります。