食品安全を守る国際的な品質基準食品製造業において、お客様に安全で高品質な製品をお届けすることは、重要な使命です。その品質を保証する上で、食品検査は欠かせないプロセスであり、その信頼性は企業の信用を左右すると言っても過言ではありません。この記事では、食品検査の信頼性を高め、国際的な基準を満たすための重要な国際規格であるISO/IEC 17025について、食品メーカーに入社したばかりの皆さんに分かりやすく解説します。第1章:ISO/IEC 17025とは?試験所及び校正機関の能力に関する国際規格ISO/IEC 17025は、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)が共同で開発した国際規格です。この規格は、試験所や校正機関が信頼できる試験結果や校正データを提供するための要求事項を定めています。食品検査を行うラボも、この規格に準拠することで、その能力を国際的に証明することができます。ISO/IEC 17025への適合性は、日本ではJAB(公益財団法人日本適合性認定協会)のような独立した認定機関によって評価され、認定が付与されます。この認定は、そのラボがISO/IEC 17025の要求事項を満たし、特定の試験や校正を行う能力があることを第三者が保証するものです。品質マネジメントシステムと技術的要求事項ISO/IEC 17025は、試験所や校正機関が信頼性の高い結果を提供するための国際規格です。この規格は、ラボの運営体制や品質保証の仕組みを定めた「品質マネジメントシステムに関する要求事項」と、試験・校正を行うための「技術的要求事項」の2つの要素で構成されています。品質マネジメントシステムに関する要求事項には、以下のような内容が含まれます・組織体制と責任の明確化・文書の管理方法・不適合が発生した場合の是正処置・品質を継続的に維持・改善するための内部監査・定期的なマネジメントレビューこれらは、ISO 9001の品質マネジメントの考え方と共通する部分が多く、ラボ全体の品質管理体制の土台となるものです。一方、技術的要求事項では、試験や校正を正確に行うための具体的な技術基準が定められています。主な内容は以下の通りです。試験・校正を行う担当者の資格や教育訓練使用する設備や機器の適切な維持管理試験方法の選定と妥当性の検証測定結果の信頼性を保証するための計測トレーサビリティこれらの要求事項を満たすことで、ラボは一貫して正確かつ信頼性の高い試験結果を提供することが可能になります。第2章:なぜ食品検査にISO/IEC 17025が重要なのか試験結果の信頼性向上食品検査においてISO/IEC 17025が重要な理由の一つは、試験結果の信頼性を向上させるからです。この規格に準拠することで、試験所は適切な品質管理体制を確立し、技術的な能力を高めることができます。その結果、得られる試験結果はより正確で信頼性が高まり、検査機関は製品の品質をより確実に保証し、消費者の安全を守ることができるのです。信頼性の高い検査結果は、製品の合否判定や品質改善の根拠となります。国際的な相互承認ISO/IEC 17025は国際規格であるため、この規格に基づいて認定された試験所の試験結果は、海外の規制当局や取引先にも広く受け入れられやすいというメリットがあります。これは、食品の国際貿易を円滑にする上で非常に重要です。例えば、日本でISO/IEC 17025の認定を受けた機関で検査された食品は、輸出先の国でも追加の検査なしに受け入れられる可能性が高まります。これにより、輸出入の手続きが簡素化され、時間とコストの削減にも繋がります。顧客からの信頼獲得ISO/IEC 17025の認定は、試験所の技術的な能力と品質管理体制が国際的に認められていることの証明となります。食品メーカーがこのような認定を受けた試験機関に検査を委託したり、自社の検査ラボがこの規格に準拠することで、消費者や取引先からの信頼を得やすくなります。メリット概要試験結果の信頼性向上適切な品質管理と技術的能力により、正確で信頼性の高い検査結果を提供国際的な相互承認国際規格であるため、海外の規制当局や取引先にも受け入れられやすい顧客からの信頼獲得技術的能力と品質管理体制が国際的に認められ、顧客からの信頼を得やすい第3章:食品メーカーが知っておくべきISO/IEC 17025受託検査機関の選定における重要性食品メーカーが製品の品質検査を外部の検査機関に委託する際、その機関がISO/IEC 17025の認定を受けているかどうかを確認することは重要です。認定を受けた検査機関は、国際的な基準に基づいて試験を実施するため、食品メーカーは信頼性の高い試験結果を得ることができます。これにより、自社製品の品質を保証し、安全性を確保することができます。委託先の検査機関を選ぶ際には、ISO/IEC 17025認定の有無を必ず確認しましょう。自社検査体制の強化もし食品メーカーが自社内に品質検査を行うラボを持っている場合、ISO/IEC 17025の考え方を取り入れることで、その検査体制の品質と信頼性を大幅に向上させることができます。また、自社で高いレベルの品質管理を行うことは、製品の品質向上に直接的に繋がり、ひいてはお客様からの信頼を深めることにも繋がります。第4章:ISO/IEC 17025の品質マネジメントシステムISO/IEC 17025の品質マネジメントシステムは、信頼性の高い試験結果を生み出すための基盤となるものです。その主要な要素について解説します。組織と管理ラボは、法的責任を明確にし、適切な組織構造と管理体制を確立する必要があります。これには、試験業務の責任者や権限を明確にすること、利害の衝突を防ぎ公平性を確保するための仕組みを設けることなどが含まれます。明確な組織体制は、責任の所在を明らかにし、スムーズな業務運営を支えます。文書管理品質マニュアル、手順書、記録など、ラボの運営に関するあらゆる文書は、適切に作成、管理、保管されなければなりません。これにより、全ての試験が標準化された手順に従って実施され、結果のトレーサビリティが確保されます。最新の文書が常に利用可能であることも重要です。是正処置と予防処置試験や校正において不適合が発生した場合、その原因を特定し、再発を防ぐための是正処置を講じることが求められます。また、潜在的な問題やリスクを特定し、未然に防ぐための予防処置も重要です。これらの措置を通じて、ラボは継続的な改善を図ります。内部監査品質マネジメントシステムが有効に機能しているかを定期的に評価するために、内部監査を実施する必要があります。内部監査によって発見された改善点は、ラボの品質向上に繋がります。マネジメントレビュー経営層は、品質マネジメントシステムの適切性、妥当性、有効性を定期的に見直す必要があります。このレビューを通じて、品質目標の達成状況や改善の必要性が評価され、経営判断に反映されます。経営層のコミットメントは、品質管理体制の維持と向上に不可欠です。第5章:ISO/IEC 17025の技術的要求事項ISO/IEC 17025の技術的要求事項は、試験結果の信頼性を確保するための具体的な基準です。要員(資格、教育、訓練)試験や校正を行う担当者は、必要な資格、教育、訓練を受け、その業務を遂行する能力を持っている必要があります。これには、定期的な研修や星取表などの力量評価が含まれます。 要員は、正確な試験結果を生み出すための重要な要素の一つです。施設及び環境条件試験や校正を行う施設は、適切な温度、湿度、照明などが維持され、試験結果に悪影響を与える可能性のある要因から適切に保護されている必要があります。清潔で整理整頓された環境は、正確な試験を行うための基本です。5S活動を意識した取り組みも行います。試験機器と校正試験に使用する機器は、適切に管理され、定期的に校正されている必要があります。校正によって、機器の測定値の正確性が保証されます。また、定期的なメンテナンスも機器の性能維持には不可欠です。内部校正・外部校正の頻度、実施内容や判定基準を規定することが必要です。測定のトレーサビリティ測定結果には、国家標準または国際標準に基づくトレーサビリティが求められます。これは、測定の連鎖をたどることで、その測定値が上位の標準と確実に関連付けられていることを意味し、結果の信頼性と再現性を確保するための重要な要素です。この要件を満たすために、多くのラボではトレーサビリティ体系図を作成しています。自分の経験としても、外部審査対応の実務上では、外部審査員によって指摘内容が変わることがあるため、対応に苦慮する場面が少なくありません。同じトレーサビリティ体系でも、審査員ごとに重点を置くポイントが異なるためと思います。◆審査対応の工夫と現場でできること外部審査員によって指摘内容が異なる場面では、現場として柔軟に対応できる体制と論理的な説明力が求められます。以下に、私自身の経験を踏まえた対応の工夫を紹介します。① トレーサビリティ体系の「根拠」と「考え方」を明確にする審査員によっては、図やフローに対する理解の切り口が異なるため、なぜそのような体系にしているのかという考え方(ロジック)を文書化しておくと説得力が増します。② 「審査員ごとのコメントや指摘事項」を記録・共有する過去の審査履歴を記録し、「○○審査員は校正証明書の△△の箇所に関する記載内容にこうコメントした」「□□審査員は体系図のこの部分に着目して指摘した」など、社内で蓄積・共有しておくと、次回以降の更新審査の対応に役立ちます。試験方法と妥当性確認使用する試験方法は、適切に選択され、検証されている必要があります。検査機関で独自に開発した試験方法については、その目的とする用途に適していることを示す妥当性確認を行う必要があります。測定の不確かさ試験結果には、常に測定の不確かさが伴います。ISO/IEC 17025では、この不確かさを評価し、報告することが求められています。測定の不確かさを理解することは、試験結果の解釈において重要です。サンプリング試験対象のサンプルは、適切な方法で採取されなければなりません。サンプリングの方法は、試験結果の代表性に大きく影響するため、その手順は明確に定められ、適切に実施される必要があります。試験品の取扱い試験品は、受領から試験、保管、そして廃棄に至るまで、その完全性が損なわれないように適切に取り扱われなければなりません。適切な取扱いは、試験結果の信頼性を維持するために不可欠です。試験結果の品質保証試験結果の正確性、信頼性、そして報告の形式は、ISO/IEC 17025によって管理されています。試験報告書には、必要な情報が漏れなく記載され、誤解のないように明確に伝えられる必要があります。第6章:日本の食品安全とISO/IEC 17025厚生労働省、農林水産省の関連情報日本の食品安全に関する規制を管轄する厚生労働省や農林水産省のウェブサイトでは、食品検査における国際規格の重要性が示されています。例えば、ISO/IEC 17025の認定を受けていることが、食品検査の能力を見分ける目安の一つとして挙げられています。第7章:まとめISO/IEC 17025は、食品検査の信頼性を確保し、国際的な基準を満たすための重要な国際規格です。食品メーカーの新入社員である皆さんがこの規格を理解することは、日々の業務において品質管理と安全性の確保に貢献するために不可欠です。信頼性の高い食品検査を通じて、お客様からの信頼を獲得し、企業の発展に貢献していくことの重要性を改めて認識しましょう。ISO/IEC 17025の知識は、皆さんの今後のキャリアにおいて、必ず役に立つはずです。◆ PR記事執筆・講習会・販売支援のご依頼はこちらから ◆「こんなテーマで記事を読んでみたい」「1時間程度の社内・社外向け講習会を開催してほしい」「製品やサービスのPR記事を執筆してほしい」「製品のリンクを掲載してほしい」「自社製品・サービスの販売を取り扱ってほしい」などのご要望・ご相談がございましたら、お気軽に質問フォームよりご連絡ください。皆さまの声をもとに、より実用的な情報発信を目指してまいります。