🏷️ 令和7年3月公表「食品期限表示の設定のためのガイドライン」解説― 賞味期限の安全係数見直しで表示期間はどう変わる? ―2025年3月、消費者庁は「食品期限表示の設定のためのガイドライン」を公表しました。今回のガイドラインでは、賞味期限や消費期限の設定において使われてきた「安全係数」の考え方が見直されることになり、業界内でも大きな注目を集めています。(出典)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1029.pdf (消費者庁 食品表示課 令和7年3月)👉 これまで一般的に使われてきた安全係数「0.8以上」という目安は削除され、「食品の特性等によるが、安全係数は1に近づけ、差し引く日数は0に近づけることが望ましい」という新たな方針が示されました。🔍 本記事では、なぜ見直しが行われたのかどのような食品に影響があるのかメーカーとして何をすべきかといった観点から、食品製造事業者向けにわかりやすく解説します。📌 目次🔍 第1章:安全係数とは? 賞味期限・消費期限の決め方の基本✅ 期限表示の2種類食品のパッケージに表示される「期限表示」には、以下の2つがあります🕒 消費期限:劣化によって安全性が損なわれる前に食べる必要がある期限🍽️ 賞味期限:おいしさや品質の目安となる期限➡ 一般に、傷みやすい食品には消費期限、日持ちしやすい食品には賞味期限が使われます。※いずれも「未開封」かつ「表示どおりの保存方法」で保管された場合が前提です。🧪 メーカーはどうやって期限を決めている?食品メーカーは、保存試験を実施し、科学的・客観的な指標に基づいて、食品の品質変化を評価しています。✔ 使用される主な評価項目微生物検査(例:菌の増殖状況)理化学試験(例:pH、水分活性などの変化)官能評価(例:味や風味、色調の変化)たとえば「10日間品質保持が可能」と確認できた場合でも、実際に表示する賞味期限は「8日」と短くすることがあります。これは予測できない変動に備えるための“安全マージン”です。🧮 安全係数とは?「安全係数」とは、保存試験で得られた品質保持期間に対して、どの程度短縮して期限を設定するかを示す係数(割合)です。📘 例:10日間保存可能な食品を「8日」と表示する場合→ 安全係数は「0.8(=8 ÷ 10)」安全係数を用いることで、以下のようなメリットがあります✅ 流通中の温度変化や製造ロット間のばらつきに対応✅ 表示期限内であれば、予想外の事態があっても安全性を担保しやすい📊 安全係数のこれまでの運用これまで、安全係数には明確な法規制はありませんでしたが、消費者庁のQ&Aや業界ガイドラインが「事実上の目安」として活用されてきました。▶ 従来の代表的な目安品質のばらつきが少ない食品については「0.8以上を目安に設定することが望ましい」そのため、業界内では📌「賞味期限の設定=安全係数0.8」という考えが広く根付いていました。しかし実際には、食品の特性や事業者の判断により、係数0.7など、より慎重に設定するケース製品によって安全係数の設定を使い分ける運用など、多様な対応が取られてきました。🔸 アンケート結果によれば、約4割の事業者が0.8未満の安全係数を使用していたというデータもあります。🔍 第2章:ガイドライン見直しの背景― 食品ロス削減と安全係数の課題 ―賞味期限や消費期限を決めるうえで長年使われてきた「安全係数」。その見直しが検討されるようになった背景には、主に以下の2つの課題があります✅ 背景①:食品ロスの削減が急務にまだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」は、深刻な社会課題です。とくに賞味期限切れを理由とした廃棄が、家庭・小売・流通のあらゆる場面で起きています。✔ 主な要因実際には品質に問題がないのに、短めの期限が設定されている小売や流通の「3分の1ルール」などにより、期限が残っていても返品・廃棄される消費者が「賞味期限=食べられない」と誤認してしまうこれらの課題に対し、消費者庁の実態調査では次のような傾向が報告されました📌 安全係数を0.8未満に設定している事例が約4割👉 必要以上に短い賞味期限が設定されている可能性こうした実態をふまえ、ガイドラインでは過剰なマージンを避け、食品を無駄なく使う方向へと見直しが進められています。✅ 背景②:安全係数は食品ごとに適切に使い分けるべき従来の「とりあえず0.8を使う」という慣行には、以下のような問題点が指摘されてきました食品の特性に関係なく、一律に安全係数を使っていた腐敗リスクが極めて低い製品にも、過剰な短縮をかけていた科学的根拠よりも「慣習」や「前例」で設定していた例も🔍 例:レトルト食品・缶詰・高塩分食品・水分活性の低い食品など→ これらは保存性が高く、安全係数を設けなくても食品安全上のリスクが低い場合があります。その一方で、日配惣菜や生鮮食品などは、保存環境や品質ばらつきの影響を受けやすいため、慎重な設定が必要です。👉 ガイドラインの見直しは、こうした製品特性に合わせた、“メリハリある期限設定”を促すことを目的としています。🔍 第3章:「0.8以上」から「1に近づける」へ― 新ガイドライン案のポイント ―2025年3月に公開されたガイドライン案では、賞味期限・消費期限の設定方法について大きな方向転換が示されました。ここでは、そのポイントをわかりやすく整理します。✅ ポイント①:安全係数は「1に近づける」方向へこれまで慣習的に使われてきた「安全係数0.8以上」という目安が削除され、👉 「安全係数はできるだけ1に近づけることが望ましい」という新たな方針が打ち出されました。これにより、試験で得られた保存可能期間に近い日数を賞味期限に設定できるようになります。📝 例:10日間品質保持可能な食品これまで → 安全係数0.8で「賞味期限8日」今後は → 係数0.95などを使い「賞味期限9〜10日」も検討考慮👉 まだ食べられる食品が無駄に捨てられる状況の改善が期待されています。✅ ポイント②:安全係数を設けない選択も一部の食品では、安全係数自体を設定しなくてもよいとされています。これは、保存性が非常に高い食品に限った特例的な扱いです。「加えて、微生物の増殖の観点であれば、例えば、微生物の増殖が抑えられ ている加圧加熱殺菌しているレトルトパウチ食品や缶詰の食品等、個々の食 品の品質のばらつき等の変動が少なく、客観的な項目(指標)及び基準から 得られた期限で安全性が十分に担保されている食品については、安全係数を 考慮する必要はないと考える。」(ガイドラインより)📦 安全係数の設定が不要とされる例レトルトパウチ食品(加圧加熱殺菌済み)缶詰などこれらは微生物増殖のリスクが低く、保存性が高いため、👉 試験で確認できた保存可能期間=表示期限とすることも検討可能です。✅ ポイント③:「一律に係数1」を求めているわけではないガイドライン案はあくまで「食品の特性に応じた柔軟な設定」を求めています。❗ すべての食品で係数1を使うわけではありません。特に、以下のような食品では、安全マージンの確保が必要です。日配惣菜・調理済み食品生鮮品(要冷蔵)品質ばらつきが大きい製品 など📌 保存状況によって劣化が進みやすいこれらの食品に、係数1(=安全マージンなし)を適用すると、安全性に問題が生じるリスクもあります。👉 ガイドラインの趣旨は「短すぎる設定を見直す」ことであり、安全性を軽視するものではありません。✅ ポイント④:消費者への説明も推奨ガイドライン案では、消費者が期限表示を正しく理解できるような補足情報の提供も推奨されています。💬 表示例※「この日付まではおいしく食べられる期限です」🔎 また、未開封・適切に保存されていた場合は、賞味期限を過ぎても食べられる場合があることについて、問い合わせがあれば説明できる体制も望ましいとされています。これにより、消費者の「賞味期限=即廃棄」という誤解を防ぎ、食品ロス削減の意識づけにもつながります。🔍 第4章:安全係数の見直しで期限表示はどう変わる?安全係数の見直しは、実際の賞味期限・消費期限の表示期間にどう影響するのでしょうか?ここでは、見直しによって想定される主な変化を整理します。✅ 賞味期限が「より長く」表示される可能性改正ガイドラインにより、科学的根拠に基づいた長めの賞味期限が設定できるようになります。📘 例:保存試験で「9か月品質が保持される」と確認された食品従来 → 安全係数0.8を適用し「賞味期限6か月」今後 → 係数0.9~1.0により「賞味期限8~9か月」も検討考慮に⏩ これにより、店頭での返品・廃棄ロスが削減される消費者の家庭内での食品ロス削減にも寄与特に、賞味期限切れを理由に廃棄されていた商品では大きな改善が期待されます。⚠️ 消費期限は「慎重な設定」が継続一方、消費期限の大幅な延長は想定されていません。理由は明確で、消費期限は安全性に直結するため、安易な延長はリスクを伴うからです。🧪 たとえば…惣菜やチルド食品、生鮮品などは、製造ロットのばらつきや保存状況の影響を受けやすいため、今後も安全係数0.8前後や、日数を差し引く設定が維持されると考えられます。📌 ただし、科学的に十分な殺菌処理がされている商品では、不必要に短い消費期限を見直す余地もあります。🎯 製品ごとに「メリハリある期限設定」へ安全係数の見直しによって、今後は製品の特性に応じた柔軟な期限設定が可能になります。✅ 例製品タイプ想定される安全係数表示傾向腐敗リスクが低い製品(缶詰・乾燥品)0.8~1.0試験期間 ≒ 表示期限劣化しやすい製品(総菜・冷蔵食品)~0.8安全マージンをしっかり確保👉 このように、「一律0.8」の運用から脱却し、製品ごとに適正な表示期間を設定する時代へと移行していきます。💬 ラベル表示や補足情報の工夫も大切に新ガイドラインでは、消費者に対する情報提供の工夫も推奨されています。📎 例パッケージ上に「※賞味期限はおいしく食べられる目安です」と記載メーカー公式サイトに「賞味期限後も保存状態が良ければ食べられる可能性がある」などのQ&A掲載すでに一部の企業では、こうした情報発信を始めています。➡ 消費者の“賞味期限=即廃棄”という誤解を防ぎ、食品ロス削減にも効果的です。🔍 第5章:食品製造事業者に求められる対応と今後のポイント賞味期限・消費期限の設定に関するガイドラインの見直しを受けて、食品製造業者が今後どのように対応すべきかを整理します。✅ 1. 自社製品の期限設定の根拠を再確認するまず重要なのは、自社製品の賞味期限・消費期限がどのような根拠で設定されているかを見直すことです。📌 チェックポイント:保存試験は実施済みか?設定している安全係数は妥当か?過去の慣習や経験則に頼りすぎていないか?👉 「なんとなく0.8」からの脱却が求められます。製品ごとに品質のばらつき・保存性・リスクを再評価し、論理的に説明できる期限設定を行いましょう。✅ 2. 必要に応じて追加の保存試験を実施安全係数を見直すには、科学的な裏付けデータが欠かせません。そのためには、必要に応じて保存試験や官能評価を再設計・延長することも検討しましょう。📘 例従来は「6か月」まで試験していた商品 →「9か月」まで試験を延ばすカレンダー上の表示日数と、科学的データをすり合わせる👉 より精緻な検証によって、適正な期限設定が実現できます。✅ 3. 社内での情報共有と意識改革ガイドラインの内容は、品質管理や開発部門だけでなく、営業・表示・カスタマーサポート部門まで社内全体で共有することが重要です。📎 具体的には安全係数の意味と設定方針を周知賞味期限と消費期限の違いを正しく理解消費者からの問い合わせに備えた説明マニュアルの整備🔍 例「この商品の賞味期限は○○ですが、未開封かつ適切な保存状態であれば、△△日程度は品質に問題ない場合があります」といった柔軟な対応ができると、信頼性の高い企業対応として評価されやすくなります。✅ 4. 消費者への情報提供と啓発活動メーカーとして、消費者が賞味期限・消費期限を正しく理解できるような補足情報の提供も大切です。📣 取り組み例パッケージに説明文を追加 例:「賞味期限は、おいしく食べられる目安です」SNSやWebサイトで、保存方法・食べ切りの工夫を紹介賞味期限後の“食べられる可能性”についてのFAQを掲載こうした取り組みは、食品ロス削減の社会的要請に応えるだけでなく、自社商品のブランド価値向上にもつながります。✅ 5. リスクマネジメントとのバランスを保つガイドラインは法律ではありませんが、今後正式な改正が行われる見通しです。それに先駆けて、自社内の運用ルールや基準を見直すことが望まれます。ただし、安全係数を安易に「1.0」にすることで、万が一、品質トラブルが起きた場合には企業責任を問われるリスクも高まります。👉 ポイントは「科学的根拠に基づき、説明責任を果たせるかどうか」。リスク管理部門とも連携し、バランスの取れた期限設定を心がけましょう。📝 まとめ:安全と食品ロス削減を両立する期限表示とは今回のガイドライン案で示された👉 「安全係数を0.8以上から、1に近づける」という方針は、食品業界にとって大きな転換点となる内容です。🎯 この見直しが意味するもの「短めの期限で安全マージンを取る」という従来の一方向的な発想から、「科学的根拠に基づいた、実態に即した期限設定」への転換これは、単なる表示ルールの変更ではなく、✅ 安全性✅ 品質保持期間の明確化✅ 食品ロス削減を同時に実現するための施策です。✅ ガイドラインの要点(再確認)食品の特性等によるが、安全係数は1に近づけ、差し引く日数は0に近づけることが望ましいこれはすなわち:科学的データを根拠とした長めの表示を推奨不必要に短い期限による「食品ロス」の抑制製品ごとの柔軟な対応と説明責任の強化⚠️ 注意すべき点今後は、従来よりも長期的で根拠のある期限表示が求められていく方針が示されたといえます。ただし、安全係数を1に近づけることは、製造者にとって一定のリスクも伴います。もし表示された期限内に品質劣化や安全性に関わる問題が生じた場合、その責任を問われるのは製造者です。そのため、保存試験やリスク評価に基づいた科学的な裏付けがこれまで以上に重要になります。これからの期限設定では、「なぜこの期限なのか?」を説明できるだけのデータと論理性を備えた判断と説明責任が、業界全体に求められていくことになるでしょう。✔ 保存試験に裏打ちされたデータ✔ 適切なリスク評価✔ 明確な社内ルールと社外説明体制これらを整えたうえで、期限表示を見直していく必要があります。